kodokuforum’s blog

孤独について語り合う広場です。さみしい孤独もあるし、楽しい孤独もある。どんな孤独でもいいから、気が向いたときに読んだり投稿したりしてください。

ブリーニーさんの部屋

      フィリップ・ラーキン  宮本麗音訳

 

 「ここはブリーニーさんの部屋でした。ここにお住まいのときには、

ずっとボディーズ車体工場にお勤めでしたが,

転勤になったんですのよ」花柄のカーテンは薄く擦り切れていて、

窓の裾まで5インチほど寸足らずで、

 

窓の向こうにのぞく細長い宅地には、

草が生い茂り、ごみが散らかっている。「ブリーニーさんは、

うちの小さな庭を、きちんと手入れしてくれてましてね」

ベッド、背高椅子、60ワットの裸電球、それ以外には

 

ドア裏のフックもないし、本やカバンを置くスペースもない。

「じゃあ、この部屋をお借りすることにします」ふと私はそのベッドに横たわり、

ここでブリーニーさんは寝てたんだ、この土産物の灰皿で

煙草を吸ってたんだと思いながら、煙草をもみ消し、それから

 

脱脂綿を耳に詰めたら、ちっとはあの騒音が防げるかと、

試してみる。ブリーニーさん、大家をそそのかしてテレビを買わせたんだな。

私には彼の習慣がわかる—何時に階下に降りてきたとか、

グレービーよりソースが好きだったとか、どうして

 

サッカー賭博にうつつをぬかしていたのか、

それに、彼の年中行事がどうだったかも。フリントンのお歴々は

夏休みに彼を泊めてくれたし、

クリスマスには、ストークの姉の家に泊まらせてもらったとかね。

 

でも、彼が立ち尽くして凍える風が

雲をかき乱すのを見つめたり、かび臭いベッドに横たわって

これが俺の家なんだと独り言を言い、ニタリと笑い、

身震いしても、身の不安は震い払えず、

 

どんな生活ぶりかで人が評価される世の中だというのに、

んな年齢にもなって人に見せられるものといえば、

借り物の小部屋しかないんだと自分に言い聞かせ、

せいぜいこの程度の人間なんだと思っていたかどうか、私にはわからない。

 

 

Mr Bleaney

   ―Philip Arthur Larkin

 

This was Mr Bleaney’s room. He stayed 

The whole time he was at the Bodies, till 

They moved him.’ Flowered curtains, thin and frayed, 

Fall to within five inches of the sill, 

 

Whose window shows a strip of building land, 

Tussocky, littered. ‘Mr Bleaney took

My bit of garden properly in hand.’ 

Bed, upright chair, sixty-watt bulb, no hook

 

Behind the door, no room for books or bags –

I’ll take it.’ So it happens that I lie

Where Mr Bleaney lay, and stub my fags

On the same saucer-souvenir, and try

 

Stuffing my ears with cotton-wool, to drown

The jabbering set he egged her on to buy. 

I know his habits — what time he came down, 

His preference for sauce to gravy, why

 

He kept on plugging at the four aways – 

Likewise their yearly frame: the Frinton folk 

Who put him up for summer holidays,

And Christmas at his sister’s house in Stoke.

 

But if he stood and watched the frigid wind 

Tousling the clouds, lay on the fusty bed 

Telling himself that this was home, and grinned, 

And shivered, without shaking off the dread

 

That how we live measures our own nature,

And at his age having no more to show 

Than one hired box should make him pretty sure 

He warranted no better, I don’t know. 

 

このブリーニーさんという、たぶん初老の独身男性は、大家さんの話では単に転勤しただけということになっているけれど、仮にここで亡くなったと想像しても十分つじつまが合うような気がする。

訳者も「Bodies というのは整備工場かなにかの会社名として大文字にされているが、文字通りには『遺体』の複数形ともとれる。また、"till / They moved him"という一節も、『この世からあの世へと移されるまで』という含みを感じさせる」と指摘している。

つまり、今の日本で言う、「孤独死」をほのめかしているともとれる。